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「それは……」
奏はそこで初めて目をそらした。照れたようにほんのりと頬が赤くなる。
「……杏奈先輩のベースの音がお姉ちゃんに似てたからです」
奏の言葉を聞いて、杏奈の腕が力を失いだらんと下がった。今にも膝から崩れ落ちるんじゃないか。そんな杏奈に畳み掛けるように奏が言葉を続ける。
「私にとって杏奈先輩は特別です! だから、」
それは杏奈がなりたくてもなれなかったものだった。彼女が望んでいたものとは違うかも知れないけど。だけど、杏奈に奏の気持ちが分からないわけじゃないはずだ。あの頃の自分と奏を重ねているのだろうか。潤んだ杏奈の瞳の奥に、幼い彼女が潜んでいる気がした。
――だから。奏の思いは止まらない。
「まだ戦って欲しいんです!」
楽屋に響いていた重低音はいつの間にか止んでいた。
奏が自分のお姉ちゃんと杏奈を重ねていたとすれば、杏奈は優しく真っ直ぐで戦いから逃げない先輩であって欲しかったのだろうか。でも、それだけじゃないはずだ。ただ純粋に杏奈のことが好きだったのかもしれない。きっと、お姉ちゃんと同じくらい。
「後輩がここまで言ってくれてるんやで?」
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