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里帆が杏奈の肩に手をやり、強張った筋肉をほぐすように優しく揉んだ。声にならない声を出しながら、杏奈は首を縦に振る。
「ごめん……私……」
杏奈の双眸からは大粒の涙がこぼれ落ちていた。たとえ、杏奈は惨めな敗北者だとしても、それを笑うものはこの部にはいない。誰もが勝つために努力をしている。だけど、残酷にもオーディションはその努力を結果で示さなくてはいけない。そして、その結果は必ず二極化されるのだ。
目を伏せながら、杏奈は知子に向かい声を振り絞った。
「もう少しだけ考えさせてもらっていいですか」
「後悔しない選択肢をして。鈴木さんにはまだ一年も時間がある」
知子の言葉に杏奈は深く頷いた。それから言葉はなく、杏奈は部員たちに頭を下げる。言いたいことはあるだろうけど、きっと言語化出来ないのだ。この問題は、杏奈自身の問題だ。こちらに謝罪する必要なんてないし、誰もそれを望んでいない。杏奈はそれに気づいているはずだ。ここに残るには、彼女自身が戦い続けようと決めるしかないのだから。
退出した杏奈と入れ替わりで、ライブを終えた有志バンドの子たちが楽屋に戻ってきた。
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