78人が本棚に入れています
本棚に追加
/1504ページ
まだざわめきの残る校舎がオレンジ色に染まっていく。電気の消えた誰もいない廊下の向こう側で、ポツリと音楽室が佇んでいた。カーテンの隙間から漏れた光が、一筋の線となって、扉が開いた準備室の方まで伸びている。みなこは「失礼します」と声をかけて、その中へと歩を進めた。
「おつかれー」
軽く声をかけられて、「お疲れ様でした」と返す。カチャカチャ、とサックスのハードケースが音を立てた。少しだけ背伸びをしながら、里帆が棚に向かって手を伸ばす。
「わざわざ呼び出してごめんな」
「いえ、それは構いませんけど」
里帆は下ろした髪を撫でる。「よいしょ」と声を出して、ハードケースを棚に押し込んだ。
「今回、清瀬ちゃんにはきつい役回りさせてもうたかもな」
「こうなるって、全部、分かってたんですか?」
「まさか、奏ちゃんにあんな思いがあったとは思わんかったよ」
奏があんな風に本音をさらけ出すのは意外だった。だけど、奏がベースを初めた理由をみなこは知っている。それは姉への憧れだ。けど、どうして奏はこの学校を選んだのか。奏の家で抱いた疑問の答えは、すごく単純なものだった。
最初のコメントを投稿しよう!