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1話「秋祭り」
秋の装いを纏った澄んだ空気に、遠い祭り囃子が混じり合う。この間までは暑かったくせに、とみなこは唇を尖らせて、襟元の隙間から入ってくる冷たい風に身体を震えさせた。沈んでいく夕陽の色も空に浮かぶうろこ雲も街の色合いも、世界は何もかもがすっかり秋めいている。それは、大会まであと一ヶ月、そしてそれに伴うオーディションが迫っていることをみなこに知らしめていた。
「あー、何食べようかなー」
「あんたホンマに食うことばっかやな」
「お祭りの楽しみってそれ以外にあんの?」
「あるやろ! 今日はないけど花火とかお神輿とか?」
「んー、でも花火はともかくお神輿は食べれんからな」
前を行くめぐと七海がそんな会話を繰り広げている。花火だって食べられないだろうに。そんなツッコミを胸の中に仕舞い、みなこはオレンジ色に染まった空を見上げた。鼓膜を揺する夏みたいな太鼓や鈴の音とうろこ雲が染まっている秋めいた空は、まるで履き違えた靴下みたいだ。カーブミラーには、子どもたちが運ぶお神輿が映り込んでいた。
「佳奈ちゃんは何食べるの?」
「私は焼きそばが食べたい」
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