1話「秋祭り」

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「そうなんやけど……」  美帆の困り顔は、じわじわと下ろされる夜の帳の中へと消えていく。 「なんだか大人な話ですね」  しみじみと呟いた七海に、みなこは心の中で同意する。  盛り上がりの輪の中からすっと抜け出して、今度は佳奈がこちらに寄ってきた。みなこの腕を引いて、みんなに聞こえないように甘い声を出す。 「みなこは高橋と進展なし?」 「なんで私が航平と進展しなあかんの?」 「だって仲ええんやろ?」 「ま、悪くはないけど」  なら進展するだろう、と言いたげに佳奈の表情が怪訝なものに変わった。可愛らしい少女の眉間に出来た皺を見つめて、みなこはため息をこぼす。 「航平とは何もないから。私なんかよりも佳奈は? モテるんやろ? 彼氏、作ればええやん」 「今は好きな人とかおらんから。強いて言うなら音楽が恋人とか?」  真面目な顔してそんなことを言う佳奈に、みなこの口端は思わず緩む。「それは私もやって」と返して、少し先をいく先輩たちを追いかけた。 
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