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2話「アドバイス」
カツカツ、とドラムスティックの弾ける音が、みなこの鼓膜を太鼓のように揺する。すっかり聞き慣れた七海のダブルカウントに合わせて、優しいピアノの音色が、いつもよりも広く感じる部室を包み込む。
ピアノを演奏しているのはめぐだ。というのも、二年生は来週に控える修学旅行の説明会、三年生は受験関係の用事があるとのことで、一年生だけで練習をしていた。上級生がいないのはある意味チャンスでもある。もうすぐ大会のオーディションがあるのだが、その為に差を埋めるのにはもってこいの時間だ。一分、一秒も無駄には出来ない。
……とは言っても、この一時間で埋まる差ではないことくらい分かっている。けど、じっとはしていられなかった。きっと、自分の中にある負けたくない気持ちが闘争心をかきたててくれているに違いない。
「伊藤さん、もっと周りの音を聴いた方がええと思う」
「ごめん、ちょっと走ってた?」
「ううん。リズムは大丈夫やけど、アドリブが独りよがりになってる」
「分かった。気をつける」
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