2話「アドバイス」

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 佳奈をまじまじと見つめるめぐの双眸は鍵盤の色に染まっている。それは白と黒だからじゃなく、彼女がひたむきに練習をし続けているからだ。もともとクラシックを習っていためぐにとって、コードやアドリブへの適応が至上命題だった。夏頃までは苦戦していたけれど、文化祭ではすっかりジャズピアノが板についていた。  けど、佳奈の求めているレベルはもっと高いところにある。それに、めぐだって現状では満足していない。戦わなくてはいけない相手が知子だからだ。めぐは、本気で知子に勝つつもりで練習に励んでいる。そのために、有名なジャズピアニストの演奏をネットなどで見るなど日々研究に余念がないらしい。 「俺はなんか気をつけた方が良いところある?」 「高橋は、高音が時々不安定な時があるから、もっと正確さを意識した方がいい」 「うわあ、そんな基礎的なところかー」 「基礎的なことは何より重要やで。一流の人は必ず基礎がしっかりしてる。だから、そこを怠ったらあかん」 「なるほど」  素直に納得した航平に、「音楽教室の先生の受け売りやけど」と佳奈が付け加える。教える側に立つことが少々恥ずかしいらしい。
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