3話「スープ」

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3話「スープ」

 ガチャン、と音を立てて黄色い缶が落ちてきた。取り出し口のプラスチックカバーに引っかかる熱々のコーンスープに、みなこは恐る恐る手を伸ばした。  十月も中旬になり、山の上にあるせいか、夕方の校舎はすっかり冷え込む。 「そんな真冬みたいなの飲んで」  はふはふと手の中で暴れるコーンスープと格闘していると、杏奈にそう声をかけられた。片手に握った小銭を投入口に入れながら、彼女はこちらに視線を向けて口端を釣り上げる。杏奈も飲み物を買いに来たらしい。ガチャガチャと小銭を飲み込んで、まるでイルミネーションのように自販機は鮮やかに色めき出した。 「今日は寒いじゃないですか」 「確かになー。今は十一度やって」  スマートフォンで天気予報を確認したらしく、杏奈はその画面をこちらに向けた。画面には向こう六時間の気温と天気が表示されている。場所が西宮と表示されているのは、杏奈の家に地域が設定されているからだろう。同じ県内だが、山の上であるこの場所はもう少し気温が低いかもしれないと、みなこは凍える身体を震わせながらそう思った。 「身体が冷えます」 「熱い思いを込めて演奏してたら身体は冷えへんよ!」
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