3話「スープ」

2/6
前へ
/1504ページ
次へ
 杏奈の冗談を笑えないみなこに、彼女は困った表情を浮かべた。いつもみたいに「清瀬ちゃんは真面目だなー」と返って来ないのは、その冗談があまりに過去の自分を否定していたからだろう。 「今の杏奈先輩は熱い思いがあるんですか?」  徐々に穏やかになっていく缶の温もりは、その熱がみなこの手の中へと吸い込まれていったからだ。「ちゃんと振って飲まな、コーンがもったいないで」と杏奈は、パックのオレンジジュースのボタンを押す。  ボスッ、と低い音が響いて、オレンジ色の紙パックが落ちてきた。張り付いたストローを剥がして、杏奈はそれを銀色のシールへと突き刺す。彼女が吸い込めば、真っ白なストローの管の中をオレンジ色の液体が登ってきた。 「どうなんですか?」  みなこはもう一度訊ねた。自分の言葉は、まるで杏奈を責め立てているように感じたが、彼女はそういう印象を受けなかったらしい。優しく微笑んで、口元を緩めた。
/1504ページ

最初のコメントを投稿しよう!

78人が本棚に入れています
本棚に追加