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「ライバルですか」
「なんか子どもっぽいって馬鹿にした顔してへん?」
「してないですよ!」
「そう? けど、善戦を尽くした上で、谷川ちゃんに勝って欲しいかな」
「どうしてですか?」
校舎の隙間から覗く世界の縁が、オレンジジュースをこぼしたみたいな色に染まっている。影が落ちた杏奈の顔が物悲しく見えた。だけど、去っていく明るさを追うようにやって来る夜が連れてくるのは、寂しさや悲しさじゃないはず。
「私の目標は大会じゃなかったから。あくまで文化祭のあのステージ。でも、勝負で負けたくない気持ちはあるんやで。それ以上に、谷川ちゃんが勝って喜んでる姿がみたいねん。……おかしいかな?」
「おかしくないと思います」
いずれ、夜は明ける。いつだって単純なサイクルの中にいるのに、そのことをつい忘れて、何もかもを投げやりになってしまう。けど、数ある人生の夕暮れを乗り越える方法は、夜の生き方を知ることなのだ。だから、杏奈はもう大丈夫。
「そうや、お土産なにがええ?」
「お土産ですか?」
「修学旅行! 部にも買ってくるけど、清瀬ちゃんと谷川ちゃんには特別なものを用意してあげよう」
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