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「いえいえ、いいですよ」
「もー遠慮しないでー」
チュー、と杏奈はストローを吸い上げる。少しだけ窄んだ唇はぷっくりとしていて、ちょっとだけセクシーだと思った。
「それじゃ……えーっと、どこに行くんでしたっけ?」
「シンガポールやで」
「シンガポールって何が有名なんですか?」
「マーライオン?」
「マーライオンですか……」
七海だったら元気よく「マーライオンを買ってきてください!」なんて言うんだろうなと思い、中庭の池にマーライオンがあることを想像してみる。邪魔な上に必要ない。冗談を飲み込んだみなこの内心などつい知らず、「キーホルダーかなにかにしようかな」と杏奈は真面目な顔で考え込んだ。
「頂けるなら、私は何でも嬉しいですよ」
「清瀬ちゃんは真面目やなー」
杏奈先輩だって、と言いかけてやめる。おどけた先輩をからかうのは、自分らしくない。杏奈はケラケラと喉を鳴らして、紙パックをゴミ箱へと投げ入れた。
「さすがにここで立ち話してたら身体冷えてきそうやわ」
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