3話「スープ」

5/6
前へ
/1504ページ
次へ
「いえいえ、いいですよ」 「もー遠慮しないでー」  チュー、と杏奈はストローを吸い上げる。少しだけ窄んだ唇はぷっくりとしていて、ちょっとだけセクシーだと思った。 「それじゃ……えーっと、どこに行くんでしたっけ?」 「シンガポールやで」 「シンガポールって何が有名なんですか?」 「マーライオン?」 「マーライオンですか……」  七海だったら元気よく「マーライオンを買ってきてください!」なんて言うんだろうなと思い、中庭の池にマーライオンがあることを想像してみる。邪魔な上に必要ない。冗談を飲み込んだみなこの内心などつい知らず、「キーホルダーかなにかにしようかな」と杏奈は真面目な顔で考え込んだ。 「頂けるなら、私は何でも嬉しいですよ」 「清瀬ちゃんは真面目やなー」  杏奈先輩だって、と言いかけてやめる。おどけた先輩をからかうのは、自分らしくない。杏奈はケラケラと喉を鳴らして、紙パックをゴミ箱へと投げ入れた。 「さすがにここで立ち話してたら身体冷えてきそうやわ」
/1504ページ

最初のコメントを投稿しよう!

78人が本棚に入れています
本棚に追加