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4話「曲目」
翌週、二年生が修学旅行に向かったため、部室は一年生と三年生だけになった。おまけに三年生は受験を控え、模試や予備校があるため、毎日全員が顔を出すわけではない。閑散とした部室を眺めながら、みなこはぼんやりと保育園で演奏する曲を考えていた。
「どうしたん? ぼっーとして?」
ふと背後から声をかけられて、思わず「ひゃっ」と声が漏れる。ビクッと振るえた肩を見て、クスクスとみちるが笑みをこぼした。
「驚かさないでくださいよ」
「部室で声かけて怒られるなんて……」
しゅんとしたみちるに、みなこは「反射的に出た言葉で怒ったつもりじゃなかったんです」と伝えたかった。けど、こちらが言い訳を並べる前に、彼女はおどけた仕草で赤いリボンを揺らしながら、「集中してたんやね。ごめんなー」と隣に腰掛けた。
静かで優しい笑みには、みちるの人柄の良さが出ている。部長である知子が部全体を引き締めて緊張感を出す役割だとするなら、逆に副部長のみちるは引き締まりすぎた緊張を解いてくれる。正反対の二人は、互いに足りない所を補えるいいコンビだ。
「ちょっと、保育園の演奏会の曲目を考えてまして」
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