78人が本棚に入れています
本棚に追加
『楽しく演奏して、勝ちにもこだわる』
入部したての頃、先輩と一枠しかないポジションを争うことに悩んでいたみなこは、大樹にそう教えられた。楽しく勝つ。それがこの部活のコンセプトだ。
「私はみちる先輩の選ぶ曲、とっても気に入ってます」
「ほんと! ありがとうねえ」
破顔したみちるは、さっきまでとは正反対に、まるで幼い子どもみたいだった。照れくさそうに前髪のリボンに触れて、指先でコロコロと回す。
「『Rain Lilly』もめっちゃ好きです。ちょっぴり暗いシーンもありますけど、……それにとっても難しくて。でも、最後に嵐の中を駆け抜けていくあの感じが凄くかっこいいんです! びしょ濡れになりながら、淀んだ空の果てにある『晴れ』や『虹』を探してるみたいな。なんというか、そういう感じです!」
自分の中にある曲のイメージを伝えるのは難しい。けど、溢れてくる情熱を言葉という形にする作業は、演奏をしている時に似ている気がした。言葉にするか音にするか。たった、それだけの違いだ。
「そう言ってくれるとうれしいわぁ。選んだ甲斐があったよ」
「大会もこの曲で行くんですよね?」
最初のコメントを投稿しよう!