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「一応、そのつもりやけど、最終判断はオーディション明けやね。三週間で初見の曲を仕上げるのも難しいから、少なくともこれまでに演奏したことのある曲になると思うで」
そう言ってみちるは、スタンドに掛かっていたテナーサックスを手に取った。傷一つない金色の光沢。みちるの胸元にはこの金色がよく似合う。彼女が生み出す優しく穏やかな音色は、みちるの性格そのものだ。
このあとは、一年と三年でセッションを行う予定になっていた。恐らく、『Rain Lilly』の演奏もするはずだ。
「みちる先輩は、どうして『Rain Lilly』を選んだんですか?」
これまでにイベントなどで演奏してきたジャズのスタンダードナンバーに比べて、『Rain Lilly~秋雨に濡れるゼフィランサス~』は、かなりマイナーな曲らしい。それに最近、発表された曲で、……と言ってもジャズの世界でだけど。この二十年ほどで発表されたこの曲を、ジャズに詳しい沖田姉妹もタイトルくらいしか知らなかった。
「ちょっと特別な曲なんよ」
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