5話「定期入れ」

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5話「定期入れ」

 ブレーキと同時に、七海のスクールバッグに突き刺さっているドラムスティックがカラカラと音を立てた。バッグのポケットから定期入れを出し、みなこはオリーブ色のシートから立ち上がる。 「あれ、みなこ定期入れに変えたん?」 「あー、これは――」  手に持っている定期入れに視線を落とし、みなこは言葉を詰まらせる。七海の指摘の通り、みなこは先週まではスマホケースに定期を入れていた。小さなうさぎの刺繍が入ったピンク色の可愛らしい定期入れは、誕生日に航平がプレゼントしてくれたものだ。  みなこの誕生日は七月。それなのに、どうしてこの間まで定期入れを使っていなかったかと言うと、ただ単純に恥ずかしかったからだ。男の子からプレゼントを貰うなんて経験は初めてだった。それが航平相手でも、やっぱり照れる。今まで、そんなことしてこなかった癖に。心の中で唇を尖らせて、愚痴をこぼす。 「誰かからのプレゼント?」 「なんでそう思うん?」
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