78人が本棚に入れています
本棚に追加
少し焦り顔で言葉を返してしまうが、定期入れに注視して、目頭に寄った七海の瞳には映らなかったらしい。「だって、みなこが選びそうなやつじゃないから」と七海はため息混じりに答える。
こんな時にだけ名探偵になって。定期入れをスクールバッグの影に隠して、みなこは七海から視線をそらす。電車を降りれば、強く冷たい風が吹き付けてきた。今日は、近畿地方に少しだけ早めの木枯らし一号が吹いたらしい。
「私がこのデザイン持ってたら可笑しい?」
「別に可笑しくはないけど。可愛いと思うし」
確かに航平がくれた定期入れは可愛らしい。自分には似合わないかと思ったが、そう思うのは選んでくれた相手に失礼だろうか。ウグイス色の駅舎の向こうに見える秋枯れ色の木々に、みなこは定期入れを重ねて見た。
「あれ、同じ電車やったか」
背中から駆けられた声に、みなこは慌てて振り返り定期入れを背中に隠す。自分より随分高い位置にある顔を見上げた。
「同じ時間に部活終わってるんやから!」
「まぁ、そりゃそうやな」
最初のコメントを投稿しよう!