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ケラケラと笑う七海に、航平も笑い返す。だけど、七海の言う通りだ。下校するタイミングが同じなのだから、乗っている電車も同じはず。別に貰ったものを使っているのだから隠す必要なんてないけど。無性に恥ずかしいのはどうしてだろうか。
「そういや、来週にはオーディションやけど、二人はどうなん?」
「どうって?」
「手応え」
「あー。まぁコンボの方は難しいかな。大樹先輩のギターは上手やし。それに勝つんは至難の業かも」
「俺らの学年で先輩に太刀打ちできんのは井垣くらいか」
佳奈のサックスは本当に上手い。プロになる覚悟を決めて数ヶ月。彼女の腕は更に磨きがかかった。表現力、音の美しさ、なによりもアドリブの幅。実力の無い自分では、彼女の演奏に文句をつけるところがない。今の彼女を指導できるのは、本当にプロ並みの実力を持った指導者だけだろう。
「奏もええ線いってるんちゃう?」
「あー、谷川か」
七海の言葉に、航平は納得して頷いた。ピピピッ、とICカードが音を立てる。みなこは二人の後ろに着いて、定期入れを使うタイミングを見られないように改札を抜けた。
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