6話「集中」

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 久しぶりに見るめぐのよそ行きの顔に、みなこは苦笑いを浮かべる。ぶりっ子なめぐの挙動は、主にまだ親しくない人物に向けられるものだ。その様を見なくなったということは、めぐが自分たちに心を開いてくれている証拠。それを知ってか知らずか、航平はめぐの反応に少しだけ困り顔を浮かべていた。 「休憩するなら飲み物でも買いに行く?」 「ええなー、ほんなら自販機行こうや」  七海が肩にぐっと乗っかって来た。「ギター持ってるんやから危ない」とみなこが叱咤すると、「ケチー」と愚痴をこぼしながら、七海の手がみなこの首元に伸びてきた。どうもギターのストラップがブレザーの襟を噛んでいたようで、それを正してくれているらしい。 「そうだ! 今朝、お菓子買ってきたからみんなで食べようか」 「やった! ありがとう奏ー」  手放しに喜ぶ七海の顔を見ていると、明日のオーディションの緊張を忘れることが出来る。緊張しない方法を身に着けろ。それは今年の初め頃に、里帆と大樹から教わったことだった。
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