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竜二の声は優しいピアノのような響きがあった。彼の声が通ったのは、冷えた車内のおかげだろうか。湿気た外の空気では、水分に吸収されてしまいそうなほど、小さく細かった。
それから佳乃がこちらを振り向く。わずかに口端を持ち上げて、柔らかく笑みを作った。何かをごまかそうとしているようにも、ただ素直に心から微笑んでいるようにも見える笑み。
「たまにですね」
「そっか」
佳乃のその表情にほんの少しだけの恥ずかしさと一緒に曇りのようなものを感じたのは、きっとみなこの気のせいだ。
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