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男はカウンターに全体重を掛ける勢いで、どうにか両脚を支えていた。
まぁ、文字通り腰砕けにならないだけ骨がある。と思った。
――軍人なだけのことはある、食い応えがありそうだとも。
志條は、男へと左手を差し出す。
絵に描いたような慇懃無礼、恭しい皮を被っただけのご挨拶。
「私の飼犬が失礼を致しました。雅塚少佐」
「は、放し飼いにしているのか?」
その手を男は握り返そうとはしなかったが、志條は全く気にしていないようだった。
雅塚と呼んだ男の質問にも、実にサラリと答える。
「発情状態ではないもので」
そう、志條は嘘は言っていない。
――正しくもなかったけれども。
「確かに、規約違反ではないが・・・・・・」
口ではそう言いながらも、雅塚はおれの方を何ともいえない目で見た。
戸惑っているはいるのだが、何とも艶めかしい。
――秘匿している命之水がほんの一滴、うっかりと漏れ出したようだった。
おれは雅塚の気を逸らすためにも、わざと大声で告げる。
今すぐここで、研究所の受付ではさすがにマズい。
「そう、飼犬が施設内を歩き回っちゃいけないなんて、どこにも書いてないぜ。――オッサン」
「オッ・・・・・・」
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