実験体は嚙み付く

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 まさかのオッサン呼ばわりの怒りにか屈辱にか、将又その両方にか、雅塚は呻くように一音を発しただけだった。  実際には、そんなに年は食っていないだろう。 実験に協力するくらいなのだから。  後で、もっと呻かせてやるさ。 ――それどころか、ヒィヒィ泣かせてやる。 おれはカウンターにもたれ掛かったままでいる雅塚を見た。 ほとんど睨んでいるかのような顔に、おれは笑い掛けてやった。  志條が雅塚に厳かに告げた。 「改めて、研究実験のご協力に感謝申し上げます。雅塚少佐」 雅塚は実に軍人らしく直立不動に姿勢を正した 「こちらこそ取り乱して失礼した、志條博士。α増強は皇国の命運を左右すると言っても過ぎることがない課題、文字通りの命題だ。自分が協力出来るのを誇りに思う」  ――。 二人の挨拶に交ざれないおれは、代わりに心の中でつぶやく。  杓子定規に返した雅塚に、志條も又同じように形だけで応じた。 胸の真ん中あたりに持って来た右手の人差し指と中指とを交差(クロス)させ、雅塚へと示す。 「第一位の金の燭台に弥栄(いやさか)あれ」 「弥栄あれ」 「・・・・・・」
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