飼犬は振り返る

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飼犬は振り返る

 志條時継(しじょうときつぐ)博士の理論、『LOGによるαへの有意性の立証』の予備実験は何時も通りに滞りなく終わった。  LOG、――Lily of Gabrielとは妊娠促進剤の名称だった。 ガブリエルの百合とは妊娠の象徴、らしい。 前に志條からそう聞いた。 肝心のガブリエルがどこの誰だかは知らないけど。  雅塚少佐は、このおれが保護種(オメガ)ではなくてβ(ベータ)、――しかも変異体(バタフライ)と知り、そりゃあもう驚いていた。  そんなんだったから、訓練を受けた軍人とはいえ不意を突くのは簡単だった。 おれが分泌している性的誘引物質(フェロモン)、通称・命之水(アクア・ヴィテ)がすぐさま効いて、驚いている場合ではなくなった。  通常のαでは有り得ない、おそらくは初めてだろう発情の発作に襲われて訳が分からなくなっていた。 それら全てが、ここ一年ほどの何時ものおれの仕事と同じだった。    おれの仕事はα及びΩに発情を促し、妊娠を可能にすることだった。  これから約一週間ほどは、雅塚少佐は発情しっ放しのはずだった。 その間は、発情状態になったΩと同じく国の管理下に置かれる。
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