飼犬は振り返る

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 極端な少子化により、αも妊娠が推奨されるようになった。 Ωを孕ませていればいいだけの時代は終わった。  雅塚は軍隊に所属しているだから、規則に従うのは慣れっこだろう。 軍人にしては細身で肌もきれいだった。  自身がα故に、優先的に高位(ハイスペック)なαと(つが)わされるはずだった。 皇国の繁栄の一翼を担うは軍人としての本懐、といったところか。  おれは雅塚の左あごにあったホクロを思い出しながら、仕事後の一服を深ぶかと喫い込んだ。 街の市場には出回っていない煙草が手に入るのは、軍お抱えのご身分の特権だった。 ふと、思う。  あいつは、雅塚はほんの少しだけど志條に似ていた――。 似ているような気がした。  おれの部屋――、正式名称は予備室へと入ってきた志條は露骨に眉をひそめた。 そんな表情が堪らなく様になっていて――、又そそられる。 「研究所内は完全禁煙だ」  おれは、雅塚のことを頭の中で上書きするつもりで志條を見た。 線の細い造りの顔はいかにも研究者、博士っぽい。 白衣を着ていても瘦せて見えるのだから、中身はどれだけ華奢なんだって感じだった。  まぁ、着瘦せをする(たち)なのだろう。 全くの想像だったが。
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