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「あー・・・実はね。」
莉子は、始業式前日の日曜日に従兄弟と一緒にいて、奏斗と会ったことを話した。
ただし、場所や奏斗がジャズピアノを弾いていたことは言わない。
そこは莉子なりに約束は守るという律儀さを発揮していた。
自分は白状する羽目になったが、どうせ人魚って言わないからまあいいやという打算も少しあったのは間違いない。
「その従兄弟が着てたトレーナー、お兄ちゃんのお古を貸したんだけどすっごくダサくてさ。」
「ダサくねえだろ、めっちゃかっこよかっただろ。」
「智也(ともや)さんの!?智也さんのトレーナー!?」
説明の途中で、莉子は両肩をがしりと夏美に掴まれた。
あ、そうだった・・・と別の方面の面倒くさい案件だこれと、莉子の表情が語る。
由貴は何が何やら分からないし、奏斗も夏美の突然の変貌に少し驚いた。
「夏美がそういう反応してるから、この2人にバレるじゃん。」
「いいわよ、だって智也さんイケメンだし。」
「夏美は眼科に行けばいいと思う。あんなブタゴリラはイケメンの範疇に入れたらダメ。顔は平均かもしれんが、自分に甘く妹に厳しいクソ野郎だから。」
兄のお古を勝手に持ち出して、さらに持ち出しの罪を重ねようとしているにしては、莉子の言いようは酷い。
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