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莉子の兄の智也は、現在地元の大学に通っている。
地元とはいえ、自宅からは交通の便が非常によろしくない。
都会のように地下鉄があるわけでもなく、バス路線が豊富というほどでもない地方都市。
そのため、兄は大学の近くに学生用のアパートを借り、週末や講義のない日に実家に戻って母親の手作りの料理をたらふく食べて妹にちょっかいをかけ、帰りにはタッパーに料理を詰め込んで帰る。
「あれは強奪犯そのもの。うちの食糧をあるだけ持ち逃げしやがる。こないだなんて、私が楽しみにしていたチョコがけのポテチを!!」
食べ物の恨みは恐ろしい。
力説し訴える莉子に、奏斗も由貴も思わず黙って耳を傾けてしまったが。
「莉子はこんなこと言ってるけど、莉子のお兄さんは本当はシスコンなのよ。」
親友5年目、莉子の自宅に何度も行ったことのある夏美が、その親友の言葉を真っ向否定した。
「銀縁眼鏡の知的イケメンで、私が遊びに行くといつも顔出して挨拶してくれるし、私の前でも莉子をかまい倒していくし、妹をよろしくってわざわざ頼んでくるし。」
「夏美は騙されてる!あんの大猫かぶり大王めが!!」
「あー・・・おまえの兄ちゃんがイケメンかどうかは置いといて、俺の用事を思い出してくれ。ここで騒いでるのもどうかと。」
そう言いながら、奏斗がちらりと莉子たちの背後を見た。
振り返る莉子たちの視界に、さっと隠れる人影が映る。
一瞬だが、莉子のクラスで奏斗のことを見ては黄色い歓声を挙げている女子3人だというのはわかった。
「まずいよ・・・莉子・・・」
由貴の声が不安そうに震えた。
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