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3月。
卒業式シーズン。
全国的に暖冬小雪と言われようと、雪国として名高い日本海側の県は、桜が咲くにはまだ早かった。
それでも若者たちは、新しい未来へと旅立っていく。
それに対し、残された者たちもまた新たに巡ってくる春に胸躍らせている・・・とは限らない。
「よし。誰もいない。」
早春、いや、まだ冬と言ってもいいかもしれない3月初旬。
狛江莉子(こまえりこ)は、高校の制服姿のまま砂浜に立っていた。
学校指定のスクールコートを着ていても、吹き付ける風は容赦なく髪を乱し、襟元や袖口、裾から冷気を莉子の体に送り込んでくる。
小雪までちらつく中、目の前の日本海の波は極荒れだ。
白い波飛沫が次々に浜に向かって押し寄せ、砕けて引いていく。
南国のリゾート感満載の色ではない。
深く、とことん深く。
ここで溺れたら海底なんてなくて底なしなのではないかと思うほど暗い。
深緑とも濃紺とも言えない色の海が荒れている昼間、そこに散歩でも訪れる人はいない。
それを見越して、莉子は来たのだ。
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