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隠し鍵のありかを知っていて音楽準備室にこっそり入る莉子と違って正式に職員室に申告して音楽室の鍵を借りてきている奏斗は、俺も自転車だからそっちで落ち合おうと言って鍵を返しに行った。
二人だけになって、ようやく莉子が声に出して抗議する。
「なんで王子も一緒に行くってことになったのよー!」
「莉子は奏斗が嫌いなのか?」
不思議そうに言うオルトレトンに、そういうことじゃない!と怒る莉子。
「私ですらオルトレトンとの会話にめちゃくちゃ気を使ってるんだからね!王子にオルトレトンが人魚だってバレたらどうすんのよ!」
「莉子は俺の人間としての演技を信用していないのか。」
「待て、どこをどうやったら信用出来るって言うのよ。」
バニラシェイクを「白子」と言う時点ですでにアウト。
しかも、莉子がでっちあげた偽のプロフィールをオルトレトンは知らない。
「あーもー!オルトレトンは人魚ですって言えないから、私、王子にこういう説明したんだからね!覚えといて!」
莉子は、自分の妄想フル回転で奏斗に説明した偽の「折戸レン」のプロフィールを、階段を下りながら説明した。
たった一度の説明で、オルトレトンは「わかった。人間であるときの俺はそういうことなんだな。」と納得してくれたのには助かった。
「だから、多少言動がアレでもスルーしてもらえると思うよ。」
深く溜め息をつく莉子の背を、オルトレトンが軽く叩いた。
「さすがだ!やはり莉子がいれば、俺は他の人間とも交流がもてるな!」
「私を便利屋さんとか翻訳機代わりに使うんじゃなーい!」
その分莉子に多大な負担がいくということを、オルトレトンはどれほど理解できているのか。
裏を返せば、莉子に絶大な信頼を置いているということなのだが、もちろん莉子はそんな風には考えない。
『せめて水族館での団体行動を早めに終わらせよう!王子にとっとと帰ってもらおう!』
当然そうなる。
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