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スロープを下っていく間、壁には小さな水槽がいくつもあり、日本海で見ることの出来る魚や海老などが説明付きで入っていた。
親子連れやおじいちゃんおばあちゃんと孫の組み合わせも多く、小さい子供達に前を譲って莉子たちは隙間から見ていく。
あまり立ち止まっていられないのだが、珍しいであろう初水族館来館のオルトレトンは意外にも拘らずに進んでいく。
「もうちょっとゆっくり見てもいいよ?」
莉子が声を掛けると、高校で自分の人間としての演技の一環で「耳元で小声」をマスターしたらしいオルトレトンが、またしても顔を近づけてきた。
『黙っていれば結構イケメンなのに残念な人魚よねえ。』
などと莉子が思っていると、今回もオルトレトンがひっそり呟いた。
「見慣れているから興味ない。」
「あんたねー!1500円払ってんだから、日本海の魚は珍しくなくとも水槽観察していきなさいよね!海の中にはないでしょ、水槽って!」
アクリル水槽本体の観察もどうかと思うが、確かに日本海の、しかもこの近海の魚ならオルトレトンは見慣れていても仕方ない。
近海どころか、人間の国境など関係のないオルトレトン達人魚は日本海を挟んで違う国の魚も見たことがあるかもしれないし、何なら一度や二度はうっかり潮に流されて日本海以外にも行ったことがあるかもしれない。
他の人魚はどうかわからないが、オルトレトンなら興味関心というだけで自分からわざと流されて遠くを見に行く可能性だって捨てきれない。
しかも、オルトレトンの動きを見ていた奏斗から「やっぱ付き合ってんじゃねえ?俺、邪魔だった?」と尋ねられ「付き合ってない!絶対にあり得ない!」と莉子は返答してしまうのだった。
微妙な遠慮や思惑がすれ違いながら、3人は人の波に乗ったまま歩き、スロープを下りきった。
その先は、「マリンロード」と名付けられた海中トンネルになっている。
もちろん、本当の海中ではなく、巨大な大水槽を下や横から見られるというだけの通路なのだが。
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