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「すごいな!」
水族館に来て、初めてオルトレトンが興奮した。
『よっしゃ!人間の技術が人魚を感心させた!』
その様子に、莉子が思わずガッツポーズを一人で作る。
頭上を大きなエイが横切り、右側にはアジの魚群が一糸乱れぬ動きで移動し、左手からはサメが泳いでくる。
マリンロードは日本海大水槽を突き抜ける形で設置されているので、水槽を横や下からも眺められる唯一の場所なのである。
当然足を止めている人たちも多く、他の場所より混んでいる。
「不思議よねえ。いつも思うけど、何で食べ合わないんだろう。」
「狛江。おまえ、そんなんだったら展示できると思うのかよ。」
莉子は、奏斗から呆れた眼差しで見られた。
そんなことは莉子とて分かっている。
餌付けショー程度ならまだしも、大きな魚が小さな魚を捕食しまくって千切れた魚の断片がそこかしこに漂っていたら、飼育展示にならないことは間違いない。
「でも、小さい頃不思議に思わなかった?どうしてこんなにいろいろな種類の魚を集めておいて大丈夫なんだろうって。」
「ああ、まあ、それは思ったかな。」
けどなあと、奏斗が続ける。
「その必要がないくらい餌をやってるんだろうし、ライオンやヒョウだって腹がいっぱいなら草食動物が近くにいたら襲わないらしいぞ。それと一緒じゃねえの?」
「あ、そういうもんかー。」
弱肉強食とはいえ、むやみやたらに狩らないものねと、莉子は何となく奏斗の話に納得した。
そして、熱心に見入っているオルトレトンに声をかけた。
「どう?すごい技術でしょ。」
「ここに住んだら、食べ放題で、もっと頻繁におまえにも会いに来られる。」
そっちか、食糧問題解決のすごいな発言か、飼育されている魚は食用じゃないから食うな、てか水族館に自ら飼育されたがる人魚ってどうなのと、莉子は次々に湧き上がるツッコミをぐっと飲みこんだ。
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