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「え、レンさん、水族館に就職希望?」
中途半端にオルトレトンと莉子の会話が聞こえていたらしく、今回もいい具合に解釈してくれた奏斗。
「就職・・・ああ、働くということか?それは住むとどう違」
「夜勤もありそうだよね!水族館の飼育員さんて!」
住むとか言うんじゃないと、莉子は必死で誤魔化す。
「やっぱり生き物だからさ、具合が悪くなるとつきっきりで看病とか。それと、この水族館てラッコとかペンギンとか魚以外の生き物もいるから、赤ちゃん産まれたらその世話とかもあるよねえ!」
妄想を語り続けて鍛えた莉子の舌はよく回る。
それどころか、莉子が話し続けないと、オルトレトンがまたしても不用意な発言をしそうで怖いのだ。
「あー、そうなると住み込みまではいかないけど、水族館に寝泊まりするってこともあるのか。生き物相手って大変な仕事だよな。」
オルトレトンの就職より水族館の飼育員の仕事の方に思考が向いてくれた奏斗に、莉子はホッとした。
3人はマリンロードを抜けて、日本海大水槽と喚ばれる巨大な水槽の前に出た。
解説を見ると、中には約40種類の魚類がいて、水量は約800立方メートルと書かれている。
擬似海底やごつごつした擬岩の間を、魚たちが泳ぎ回る。
「莉子。」
またしてもオルトレトンが顔を耳元に近づけてきた。
「あの魚。」
「美味しいっていうんじゃないでしょうね。」
「すごく美味い。だから莉子に紹介したかった。」
「知ってるよ、脂がのってたらめっちゃ美味しいって。でも、そろそろ食糧の話は止めよう、お願い。」
オルトレトンが指さす方向に泳いでいたのはなかなかいいサイズのサバ。
確かにサバの味噌煮も塩焼きは美味しいけれど、こんな人混みの中で美味しそうを連発するのはいもがなものか。
後ろから次々に来る人の波に押され、3人で記念に写真撮っとくかという奏斗の優しい配慮(莉子にとっては気が気ではない)も実現されないまま、莉子たちは目立つ大水槽前から別の展示への通路に進んだ。
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