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イルカショーが行われるイルカマリンスタジアムは、既に観客がぎっしり座っていた。
座れるのは最前列か最後列くらいだろうか。
「後ろにしようよ。前は海水かぶるんだもん。」
最前列から3列目まで、ベンチの色が違う。
イルカがジャンプしたり激しく泳いだりしたときに、そこまでは水をかぶる可能性が高いですよという目安だ。
頭からびしょ濡れになることはないだろうが、濡れたままオルトレトンに夕方まで付き合うのは莉子としてはノーサンキューだ。
だというのに。
「濡れるのか。俺はかまわないぞ。」
だろうよ、あんた一日中濡れてるもんねと、莉子は声に出さないツッコミを入れた。
むしろ、ずっと海中なので乾く間もないってやつでしょ、とも。
せめて人間の姿になった今くらいは、濡れなくてもいいじゃん、とも。
「俺も平気。てか、絶対に濡れるかどうかわからないだろ。前で見ようぜ、レンさん初水族館体験だもんな。」
そう言ってすたすたと最前列に歩いていく奏斗と、その後を当たり前のようについていくオルトレトン。
莉子としては二人だけ濡れてしまえと思うが、自分だけが最後列にいてオルトレトンがとんでも発言をして奏斗に正体を疑われては後々困る。
磯臭くなる覚悟を決め、莉子は二人の後を追いかけた。
オルトレトンを挟む形で座るとほぼ同時に、軽快な音楽が鳴り始める。
『お待たせいたしました!これよりシートピア日本海のアイドル、かわいい4頭のイルカたちのショーの始まりです!』
飼育員の女性二人が登場し、いよいよショーが開始された。
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