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それまでプールのような巨大な水槽の中を自由に泳いでいたイルカが、急にきびきびと動き出した。
泳ぐ速度もぐんと上がる。
『まずはピンちゃんとクーちゃんのジャンプでーす』
どれがピンちゃんでどれがクーちゃんなのか分からないが、2頭のイルカが時間差で交差するようにジャンプした。
奥から手前に向かってジャンプするので、着水のときの波が観客席側に迫る。
思いのほか飛沫が飛んでこなかったので、莉子はホッとした。
そして、ちらりとオルトレトンを見る。
「ねえ、オル、じゃなかった、レン。」
小声で名を呼ぶと、オルトレトンはイルカから目を離さずに少し顔を莉子の方に傾けてきた。
「イルカは魚じゃないからね。」
「知ってる。だから食べない。」
「え、イルカ見たことあるの?」
「ある。莉子は知らないのか。あいつら、魚と違って俺たちと会話が出来る。」
「!?」
衝撃的な事実に、莉子は思わず目を剥いてイルカとオルトレトンを何度も見比べた。
え、これ、人魚ジョーク?てか、日本海にイルカっているの?まさか仲間に黙って別の海域に行ってきたんじゃないでしょうね、しかも会話って何ーーー
「ええと、それは。」
「今は距離があるし海中じゃあないから会話は無理だな。ぎりぎり近づいたらあの透明な板越しで話せるかもしれないが。で、何を話してみたいんだ。」
誰も話してくれなんて聞いてない、イルカを見て「美味そうだ」とか言わないよう注意しようと思っただけだし、あとイルカは哺乳類なんだからねってちょっとした知識を披露しようとしただけで、なんで会話云々てことになるのと、莉子は混乱しながらも首を横に振ってそーっと視線をオルトレトンからイルカに戻した。
にもかかわらず、奏斗がまたも中途半端に聞きつけて会話に入ってくる。
「何、狛江、おまえイルカと話したいのか。すげえな、妄想って。」
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