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オルトレトンが話せるという話が、いつの間にか莉子がイルカと話したいにすり替わっている問題。
「なんで私がイルカと話すのよ!」
「だっておまえ、話したいんだろ。」
「結構です、そこまで非常識な望みはない。」
そう言いながらも、もしオルトレトンとイルカが本当に会話が出来て、このショーが終わった後に話をするとしたら、是非聞いてもらいたいと思ったことがある。
イルカから見て、こんな人間に化けてまで陸に上がってきたがる人魚ってどう思います、と。
でもなあと、莉子は想像する。
イルカから「囚われの生活辛い」「広い海に帰りたい」「人間から見られていろいろなことをやらされるのはもう嫌だ」「助けて」などと訴えられたらどうしよう。
どうしてあげようもないから罪悪感に責め苛まれながらここを去るしかない。
訴えたのに、助けてって言ったのにというイルカたちの冷たく悲しい視線を背に受けながら。
ああ!私ってなんて無力なの!ごめんなさい、イルカたち!こんな素晴らしいショーを見せてくれているのに、私はあなたたちを救えない!
ざっぱーん!
「ひゃあああ!」
「うわー!かかった!」
悲観的な妄想に浸っていた莉子に、かなり大量の水が降り注いだ。
もちろん海水、非常に磯臭い。
『大丈夫ですかー!今日は一段とイルカたちも張り切ってますねー!』
朗らかなアナウンスは何の慰めにもならない。
背中から下ろしたデイパックを抱えていたので、服すべてが濡れたわけではないが、頭からかぶったので髪も顔も濡れた。
後ろの列からも悲鳴や笑い声が聞こえる。
「やっぱ濡れたな-、あはは。」
奏斗が笑う。
「なんでそんなに平気そうなの!」
「いや、楽しいじゃん。そのうち乾くだろ。」
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