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そのうちというが、今はまだ5月。
日本海側の5月は、それほど暖かくはないのだ。
今日は朝よりさらに晴れてきて気温も上がってきたが、夏のようにさっと乾くほどでもない。
水槽では希望者の餌やり体験が始まり、子供たちが選ばれて親と一緒に向かっている。
飼育員に優しく教えられ、子供たちは水から頭を出して口を開く。
餌の魚を口に入れ、顔を撫でて笑顔になる子供たち。
中にはおっかなびっくりで餌を投げるように放り込むと、すぐに後ずさってしまう子も。
「人間は、変なことを楽しむものなんだな。」
眺めていたオルトレトンが感心するように言った。
「ああいうの、イルカはどう思っているのかなー。」
さっきの妄想の余韻で、莉子が尋ねてみる。
イルカがというより、人魚としてどう思うんだろうと。
同じ海の生き物として、同じ哺乳類として・・・あれ?哺乳類だよね?魚類?あれ?と軽く混乱する莉子。
人魚の存在自体が人間に認知されていないので、こんな餌やりのように食糧を食べさせることはないにしても、混乱した莉子の思考は別の方向へ走る。
『あれ?これって・・・子供がイルカに餌をあげてるのって、私がオルトレトンにあーんして食べさせるのと同じってこと?』
あーんをして口に放り込むのはハンバーガーかシェイクのストローか。
少なくとも、生魚を手に持ってオルトレトンの口に咥えさせる想像は思い浮かばない。
そう思った瞬間、莉子の顔はぼん!と音を立てるほど赤くなった。
『いや!いやいやいや!カップルか!甘々か!相手は人魚!半分魚!イルカの餌やりと一緒!』
一緒ではないが、餌やりもあーんも乱暴な妄想である。
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