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ぎっしりと座っていた観客は、前後左右の階段に近い人たちから動き出し、移動していく。
そんな中、オルトレトンは立ち上がってイルカの水槽の前まで来た。
「記念撮影?写真撮ろうか?」
奏斗はそう言って携帯を出そうとするも、オルトレトンは両手を水槽に置いた。
すると、イルカたちの一頭が寄ってくる。
「お、近づいてきた。」
楽しそうな奏斗は、「よかったなー、レンさん、近くで見れて」と言ってくれるが、莉子にしたらハラハラものである。
『これってオルトレトン、マジでイルカと会話しようとしてる?』
内心冷や汗が流れる。
いや、今オルトレトンがいるのは陸で、イルカは水の中。
聞こえるまいと思っていたのだが、突然イルカがざばりと頭を空気中に出した。
『イルカー!そんなことをしなくてもいいのにー!』
イルカからの配慮というかお心遣いというか。
もしやイルカにも、オルトレトンが人間ではないとわかっているのだろうかと、莉子はこの先の展開にどきどきする。
もちろん、イルカがオルトレトンの正体をばらすなんてことは出来ないのだが。
と、オルトレトンの口からキュキューと細く高い音が空気に混じって絞り出される。
すると、イルカもきるる、けるると鳴き、それから水の中に戻っていった。
「・・・すげえ!ほんとに話してるみてえ!」
その様子に驚いてしばらくぽかーんとしていた奏斗が、オルトレトンの背をばんばん叩く。
「真似てみた。」
けろりと言うオルトレトンに、「うーん、似てない、45点」と莉子は辛口の採点をした。
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