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「お、どうした。」
トイレのあと、アイスティーと水のペットボトルを買ってきた奏斗は、笑いをこらえすぎて涙目になっている莉子と、ぼーっとイルカを眺めているオルトレトンの姿を見つけた。
もう既にほとんどの観客が移動し、座っているのは疲れて休憩場所として使用している数名だけだった。
「だ、だって、イルカに・・・っ」
「イルカの言葉を訳したら、莉子にはおかしかったらしい。」
「へえ、イルカの言葉。」
さっきの鳴き真似かと、奏斗は水を渡しながら興味津々で意味を尋ねた。
「そっ、それがさあ、イルカにアホって言われたんだって!」
イルカの言葉通りに伝えると、人魚だとバレてしまう。
咄嗟に莉子は、最後の部分だけ切り取って奏斗に伝えた。
これならジョークにも聞こえる。
そしてその「アホ」という言葉で、またしても笑いが止まらなくなる。
「アホって・・・はは、マジでイルカって人間のことそう思ってんのかもしんねえな。大勢集まって何しに来てんだ人間どもって。」
奏斗が別の解釈をしてくれたおかげで、今回もバレずに済んだ。
ようやく笑いが収まった莉子は、腕組みをしてうんうんと頷く。
「いやぁ、王子もアホでよかったわ。」
「ちょっと待て、それはどういう意味だ、紅茶返せ。」
手を伸ばしてきた奏斗から、莉子はひらりと逃げて「ペンギン見に行くよ-!」と二人を呼んだ。
ペンギンは、一旦館外に出て中庭の道を通って行ったところにあるペンギンアイランドにいる。
外に出ると、午後の日差しは午前中よりさらに強くなっていた。
乾かないと思っていた服も、もしかしたら帰るころにはましになっているかもしれないと、莉子は気分がよくなった。
二人の先頭に立ってペンギンアイランドを目指した莉子だが、何気なく振り返ってぎょっとした。
後ろからついてきているはずのオルトレトンと奏斗がいないのだ。
『しまった!油断した!』
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