水族館と人魚の約束

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莉子は青くなった。 奏斗が水族館に一緒に行くと言い出したとき、非常に嫌な予感はしたのだ。 オルトレトンが下手な失言をして、正体がバレる、もしくは莉子と親戚というとんでも設定が疑われるなどということになったらと。 しかし、ここに来てからオルトレトンは莉子の耳元で小声で話すことを実行するようになった。 彼のスキルアップに、莉子とて少なからず安心する。 加えて、奏斗は思った以上に莉子の設定を信じてくれていて、しかもお人好しかと思うほどオルトレトンに気を遣ってくれている。 そんな二人が喧嘩になることもなく仲よさそうにしているので、ついまったりとした気持ちになりリラックスしてしまったのだ。 なのに、二人が自分の前からいなくなったと気付いた莉子は、さすがに血の気が引いた。 『私の耳元で非常識なことを呟くのはまだいいよ。でも、それを王子にやったらアウトじゃん!ああ、もう、どうしてついてこないの二人とも!』 莉子は、今来た道を引き返した。 イルカショーが行われていたスタジアムまで戻っても、二人の姿はない。 『これって館内放送?迷子のお知らせってやつ?』 何と言ってお願いすればいいものか。 《市内在住の楡川奏斗様とお友達の折戸レン様、お連れ様がお待ちです、1階のインフォメーションコーナーにお越しください》 そんな放送内容が莉子の頭の中を駆け巡る。 これなら莉子の名前は出ないし、もし知り合いがいても恥ずかしいのは名前を出された王子だけだと思ったものの、本当に知っている人がいた場合インフォメーションコーナーに見に来る危険性もあると、莉子ははたと気付いた。 お連れ様である莉子もインフォメーションコーナーで待っていなくてはいけないわけで、そうするとオルトレトンはともかくクラシック王子である奏斗と莉子が一緒に水族館に来ていることがバレるわけである。 つまりデートという誤解が生じる可能性がある。 莉子にはこれがデートである認識などない。 人魚の人間社会見学に付き合っている、それのみなのだ。 申し訳ないが、奏斗はそのおまけである。
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