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『そりゃあさ、学校に顔出して王子がいたら、オルトレトンにピアノ教えてもらっちゃえとも思ったけどもさ。』
教えてもらう=ちょっとの間、面倒を見てもらう。
そんな軽い考えて奏斗を頼ったのが運の尽き、三人での水族館見学になったわけだ。
どうしようどうしようと、莉子がスタジアムから一旦出て、中庭の道を通って館内入り口付近のインフォメーションコーナーに行こうかどうか迷っていたところ、別の道から奏斗がやってきて莉子に声を掛けた。
「狛江、どこに行ってたんだよ。」
「ああっ!それはこっちの台詞だよっ!今までどこにいたの?てか、レンは!?」
何故王子一人なの、人魚をそこら辺に放流したら何をするかわからないじゃんと、莉子はきょろきょろと周囲を見回した。
「落ち着けって。レンさんならあっちのトドとかアシカのコーナーにいる。」
イルカショーのマリンスタジアムを出て中庭を少し行くと、道は2つに分かれている。
一方がペンギンアイランド方面で、もう一方がアシカ、アザラシ、トドのいる「海の動物たち」コーナーである。
スタジアムを出るときに、ペンギンを見に行こうと言うことになったはずなのに、いつの間に二人だけ勝手に別方向に行っていたのか。
「レンさんが俺に水のペットボトル代を払うって言い出して。」
いいですって断ったんだけど、自分も金をもっているからと財布を出して小銭を取り出そうとしたらしい。
「そこで100円玉を落として俺たちが拾っている間におまえがどんどん先に行ったんだろ。俺は声を掛けたぞ。」
「うっそ。聞こえなかった。」
「それ以前に、俺は買ってくるとは言ったがおごるとは一言も言ってない。レンさんは払うって言ってくれたけど、おまえ、当然のように受け取って金寄越さないよな。」
「うっ。」
痛いところを突かれて、莉子は短く呻いた。
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