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莉子と奏斗は、マスタードとケチャップが滴るアメリカンドッグを持ち上げた。
なるべく皿代わりの容器に落とせるだけ落としてから、かぶりつく。
「うぐう・・・っ!すっぱ辛い!」
「元の味がわかんねえ!」
酸味と辛味のダブルパンチに、莉子と奏斗が悶える。
加減てもんがこの世にはあるんだよ!と莉子はオルトレトンを睨みつけるも、当の本人は「これくらいなら俺でも味がわかる」とご満悦。
そうだよね、海水の塩分濃度に慣れちゃってる馬鹿舌だもんねあんたと、莉子は持ち上げたアメリカンドッグの周囲を彩っているマスタードとケチャップを、容器に擦り付けて少しでも味を薄くしようと試みた。
「これはこれで・・・慣れればいける。」
莉子と同じように大量の調味料を落としつつ、奏斗はアメリカンドッグに果敢に挑んだ。
「ごめんよ、王子。レン、食べなれてないんだよ、こういうの」
海の中にないのですよとは言えない。
「や、俺はレンさんの心遣いが嬉しいから問題ない。腹も減ってたし。」
空腹は万能調味料だもんなーと言う奏斗に、王子って意外と繊細じゃないんだなと莉子は感心した。
そもそも本当の王子ではなく、ピアノのコンクールで複数受賞、休み時間も音楽室でピアノを弾いているからついた「クラシック王子」というあだ名なのだから、別に本物の王子というわけではない。
それでも、多少は優雅とか裕福とか庶民とはやはり違うなどという雰囲気になってしまうのだ。
今、目の前でアメリカンドッグに噛り付いているのは、腹を空かせている普通の高校男子そのものだった。
「食わねえの?俺、食ってやろうか。」
「いや、食べる。こんな刺激物、大量摂取させて腹でも壊されたら、私が王子のファンに殺される。それに、これを食べられないっていうのは何か屈辱的。」
オルトレトンが初めて一人で食べ物を購入して莉子と奏斗に奢ってくれているのだ。
これを食べずしてどうする!と思っての莉子の発言だが、いかんせん言い方がよろしくない。
「屈辱ってなんだよ。おまえ、何気にレンさんに失礼だよな。」
せっかく先ほどの喧嘩の雰囲気が、マスタードとケチャップだらけのアメリカンドッグで和らいだのに、莉子の失言まがいの言い方に奏斗がむっとした顔をした。
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