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そんな雰囲気を和らげてくれたのが、またしてもオルトレトンだった。
「莉子は俺にいつも強気だ。こういう奴はなかなかいないから面白い。」
いや、あんた、どんだけ海の中で俺様なのと莉子は思ったが、自分の名前に「トン」がついているとこを誇っていることを思い出し、オルトレトンは人魚の仲間の中でももしかしたら本当に強くて偉いのかもと考え直した。
名前を勝手に変えたり短くしたりして呼ぶだけで、決闘騒ぎになるくらいなのだ。
そういう意味では、莉子はオルトレトンに無礼なことをたくさんしてきたかもしれない。
「そう言われると、ちょーっとだけ私が悪かった・・・かも?」
「なんだ、その微妙な認め方。」
奏斗に呆れた顔をされたが、莉子としては迷惑も山ほどかけられているので、全面的に自分だけが悪いとは言いづらい。
そんな莉子に、オルトレトンが笑った。
「莉子はこのままでいい。それに、俺は今後の楽しみが出来たからな。」
「楽しみ?」
この水族館でか、もしやここの魚たちを逃がそうとか考えてないでしょうね、そんな大事件起こしてくれるなと、莉子はオルトレトンが何を言い出すやらとドキドキした。
そんな莉子の気持ちを、当然のことながらオルトレトンの発言が斜め上に上回る。
「莉子と奏斗は前に会ったときより仲がいい。このまま番(つがい)になってもいいくらいだ。次に会うときにはきっと元気な」
「はあ!?」
「ちょおおおおっと待てい!!」
最後まで言わせたら大変なことになると思った莉子は素早かった。
あまりの言われように固まった奏斗に対し、莉子は瞬時にアメリカンドッグを奏斗に押し付けオルトレトンの体に体当たりするように後ろを向かせた。
奏斗に聞かれないよう、極力小声で抗議する。
「番って何よ!」
「子を産まないと種が滅ぶんだぞ。」
「高校生にはまだ早い!しかも、王子とは付き合ってない!」
「莉子は強いから、きっと丈夫な人間が生まれる。」
「そういう問題じゃないんだって!」
やはり人魚の常識は人間の非常識だったと、莉子は眩暈がする思いだった。
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