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とにもかくにも、呆然としている奏斗をどうにかしなくてはいけない。
ああ、もう!オルトレトンをあちこち連れて歩くだけでも血管キレそうなこと満載なのに、王子のフォローも私の役目かー!
莉子は脳内でそう叫んでいるが、そもそも奏斗を巻きこんだのは莉子本人である。
オルトレトンのピアノの面倒を奏斗に押しつけるべく連絡を取ったのだから。
ついでにオルトレトンを任せている間、莉子はパーカッションの練習までした。
ようするに、オルトレトンの世話のちょっとした手抜きが、今の事態を招いているわけである。
莉子は振り返ると奏斗の手に押しつけた自分のアメリカンドッグをひったくるように取り戻すと、ああああのね!と必死の説明を試みた。
「レ、レンは時々日本語おかしいところがあるから!ほ、ほら、外国育ちでしかも学歴がちょっと!」
それはもう必死である。
番と呼ばれ、さらに子作りの話にまでいきかけた。
まさかオルトレトン、人間の出産と産卵を一緒に考えているんじゃないでしょうねーー
上半身が人間で下半身が魚の男性人魚と、上半身が魚で下半身が人間の女性人魚。
その出産と育児に、人魚という未知の生き物への謎は深まるばかりである。
ただ、今は深まってばかりはいられない。
「レンは、王子と私がええとその、付き合ってもいいんじゃないかって言いたかったわけで、深い意味はないのよー。」
「俺と・・・誰が?」
ハッとした奏斗が、莉子の言葉にツッコむ。
誰がと言われても、この場にいるのは莉子とオルトレトンと奏斗だ。
莉子と奏斗以外のカップルが想像できるはずもなく、それ以前に莉子自身奏斗とのおつきあいを考えたこともない。
ないのだが、オルトレトンの言動をどうにか誤魔化さないといけないので仕方ない。
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