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通りを猛スピードで駆けていく。
正確な時刻は分からなかったが、通りの走る方向に傾いた太陽が覗いており、通り全体が真っ赤な夕焼けに染まっていた。
前の車の隙間をギリギリで抜けていく。
ハンドルを握る左手に無意識に力が入っていたのか、少し手に血が滲んでいた。
抜いた車に何度もクラクションを鳴らされたが、たとえ事故にあったとしても、もうどうでもよかった。
俺がこの世に生きる最後の意味は、失われてしまったのだから。
いや、おじさんとおばさん……
二人がまだ居るのだった。
ごめん、二人とも。
俺は彼女のことを守れなかった。
二人に合わせる顔なんてあるはずもない。
このまま、走っていったとして、俺は何処で死ねばよいだろうか。
ああ、今すぐにでも事故を起こして死ぬべきなのだろうか。
いや、でも、待てよ。
ふいに頭の中で彼女の声が微かに響いた。
それは丁度教室でした会話の一部分で、
「もし私が明日死んだらどうする、か」
彼女が最期の日に残した言葉を、独り言ちる。
そうだった。
どうして忘れていたんだ。
俺にはまだできることがあるじゃないか。
見ててくれ、おじさん、おばさん、そして最愛の君。俺はやるべきことをやるよ。
きっと君はものすごく怒るだろうな。
まあ、頭でも撫でてあげれば、君はきっと許してくれるのだろうけど。
俺にできる最後の事。
俺は、この腐りきった世界に、彼女を殺した唾棄すべきくそったれどもに、思い知らせてやるのだ。
この世界の平和なんて、一瞬で崩れ去るということを。
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