白紙の手紙

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薄い翼をもつ蝶々がくるんと部屋に入り込んできた幻覚が見え、そちらに目を奪われているとガバリと体を引き寄せられた。 「なっ…⁉︎」 誰だと思い、すぐさま蹴りを入れようと思ったが鼻腔をするりと通り過ぎた花の匂いに体が固まった。 「来ちゃった!」 その声を聞いてようやく蝶々が薔薇の花びらだったことに気づく。 そして驚きによるものであろう心臓の高鳴りを落ち着けながら一言俺は呟いた。 「…何でいるんだ。」 リビングに入れる前に部屋の掃除をするからと制止したが、そんなことソイツに通じるわけもなくリビングにズンズンと入り込む。 そしてすぐさま俺はしまったと後悔した。 書きかけの全く進まない手紙が何枚も置きっぱだったのだ。 ソイツはそれを見て、 「これ何?」と聞いてきたから、 「さあな」と答えると、 嬉しそうに「全部オレのだ!」と内容が無い手紙を両手いっぱいに持って嬉々としてそれを鞄に突っ込み始めたため俺は必死になってそれをやめさせた。
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