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「依頼人と探偵。
それ以上の関係はない。」
淡白すぎるとか、そっけないとか言われても、
探偵はその言葉を撤回しなかった。
「ただいま。」
家のドアを開けてそう告げると、遠くから小さな足音が聞こえてくる。
てしてしてし、と愛らしい軽やかな音を立てて寄ってくるのは飼い猫のクロだった。
ねぉねぉ、と鳴いてゴロゴロと喉を鳴らしながらその小さな頭をズボンへと擦り付ける。
尻尾はぴんと伸びていて好意を表してくれているようだ。
「ただいま。クロ。」
喉下を撫でるとクロは満足そうに一つふん、と鼻を鳴らしてまた家の奥へ去っていった。
そしてまた、ねぉん。と鳴く。
だが今回のは少し不満を含んだ鳴き声だ。
「はいはい。ごはんだな。」
それでよろしい、と言うようにクロは餌箱の近くでおとなしく待つことにしたようだ。
ちらちらとこちらを伺って、まだ?まだ?という尻尾の動きをするのが可愛らしい。
こんな大切な家族を探してくれた探偵には感謝しなければ。
三毛猫のオスってだけでも今後は更に注意していかなければならない。
「…お前も難儀だな。」
餌を食べるクロにそう言うと、まったくさ。というようにまたクロがねぉぉ…と鳴いた。
やはり、クロは人の言葉が分かるのではないだろうか。
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