待ってるだけでも、考えているだけでも

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「まるで話に巻き込まれて味が分からなかったみたいな顔をしてるキミへのせめてもの償いさ。 受け取ってくれ。それに、キミの時間も貰ってしまったからね。」 英国紳士みたいにレシートを指に挟む探偵さんは有無も言わさずにレジへと向かった。 外は晴れていた。 アスファルトに移る長い探偵さんの影を見てから自分の影を見るとなんだか惨めになる。 「それじゃあね。」 「はい。」 短くそっけない挨拶をする。 それから背を向けた。 しばらく歩いていくと、探偵さんの靴音は少しずつ遠ざかっていった。 春の陽気はうららかに木の葉を照らして、その影に入った。 すると、少し遠くから探偵さんの声が聞こえた。 「ああ!言い忘れていた!依頼人くん!」 珍しく張り上げた声。張り上げ慣れていないのが声の出し方で分かった。 「なんですかーー?」 と大きな声で聞き返すと、探偵さんの声がまた聞こえた。 「キミに一つ訂正したいファクターがあるんだ!」 訂正したいファクター? わざわざそんなこと大声で言う必要はあるのだろうか。 このまま長々と大声で話し続けるべきではないと思って、足を逆の方へ向きを変えて。そこからまた戻そうとしたが、 「そのままでいい」 と返されて、固まった。  「僕は退屈なんかしなかった!   まったく退屈なんてしなかったんだ!   ああ。ずっと楽しかったのさ!」 そこまで言うと探偵さんはにっとまた笑った。 そしてから満足したように歩き出して、ついにまたどこかへと消えてしまった。 だが、探偵さんの言葉の意味が俺には分からなかった。
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