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*プロローグ*
雲ひとつない青い空が広がっている。
涼しい春の風が頬を掠めて横髪を揺らして、頬をくすぐって過ぎてゆく。
「……。」
新しい朝が来た。希望の朝だ。
だが喜びに胸を開けない。
大空は十分すぎるほどに仰いでいる。
日の傾きを見るに、時刻はまだ朝6時ちょっと過ぎぐらいだろうか。
布団の重力はなく、枕もシーツの感触もない。
それどころか指の間に砂利が入り込んでいる。
そう、ここは地面。草ひとつ生えていない地面。
だが、勘違いしないでほしい。
俺は寝具の普及している現代の人間だし、寝ている間に太平洋を越えてアフリカ大陸へ上陸するほどありえない寝相の悪さを誇っているわけでもないし、砂漠で寝るようなぶっとい神経も持っていない。
普通の高校生だ。
つまりはオレはどうやら悪い夢を見ているらしい。
「もうひと眠りしよう…」
夢の中なのだから眠っても問題ないだろう。この妙に現実味のある頭の下の地面の感触から逃れたい。
俺は再び地面へと頭を戻した。
だが、右手に何かが握られていることに気づいてそちらを見やる。
筆で描かれたおかっぱ。赤く差された唇。
どこか闇を感じさせる真っ黒な目。
何かを訴えるような表情の……
……こけし。
常人なら驚いて投げたりするんだろう。
だが、こけし愛好家かつ職人を親にもつ俺はそんなことしない。
どうせまた親父が枕元に置いたんだろう。くらいの思考で流して、ゆっくりと地面にソイツを置いて目を閉じた。
目を閉じているのに、こけしからは変な威圧感を感じる。夢の中までこけしが登場するなんて、俺もそろそろ精神をやられているのかもしれない。
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