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〈第三話 切望〉
「ありがとう、朱楽。
もう大丈夫だから。」
そう言い、美琴は朱楽の胸から顔を上げた。
その顔は先まで涙でくしゃくしゃにしていたとは思えないほど、やけに晴れ晴れとしていて、朱楽は余計心配になる。
「……本当だろうな?」
「えぇ!
朱楽の話を聞いて、ますます来栖様にお会いしたくなっちゃった!」
ぱぁ~、と眩しい笑みを溢しこちらを見上げた美琴に、朱楽は「待て。」と一旦片手を出して制す。
「悪いが、来栖様の城は女人禁制なんだ。」
その言葉に、一瞬にして美琴の頭が下がった。
その様子に苦笑して慰めようと、朱楽が美琴の頭に手を置こうとした、その時_。
「どうしてもお会いして、助けてくださったお礼を言いたいの!」
_こりゃ参ったな……。
真剣に見開かれたその淡い瞳に、朱楽は何時も、なんとかして手をさしのべたくなる。
しばらく、宙ぶらりんになってしまった片手をもて余していた朱楽だったが、
「よし!分かった!」
もうこうなったら、あれしかないだろう。
驚いて固まっている美琴の両肩に手を置いた。
「公家に男装するんだ!
そうしたら女だと分からないから、来栖様にお目通りも叶う!」
_……多分。
頼むから正体バレないように、上手くやってくれよ、と、美琴に当日の計画を説明しながら、心の中で両手を握った朱楽であった。
〈続〉
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