芝浜文士

3/8
4人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
三島は優子と一度だけ会ったことがある。もちろん映画やテレビドラマを通して彼女のことは知っていたけれど、実際目の前にすると優子は更に美しかった。それでいて傲慢でもなく、彼女は心底通孝を愛しているようだった。きっと通孝が売れっ子の作家でなくても、優子は変わらずに通孝を愛しているに違いない。 それ故に、通孝はもがき苦しんでいるのだ。 通孝にとって優子はもはやマンションのように簡単に売り払ってしまえるものではない。生活を維持する為には売れる作品を書かなければならないが、そう思えば思うほど書けなくなってくる。飲まずにはやってらんねぇ、というのも三島には少し分かるような気がした。 黙ったままの通孝を置いて、三島は席を後にした。店を出るときに財布から一万円札を出して店員に渡す。小説を書けなくなった通孝の為に 三島に出来ることといえば、安い飲み代を払ってやるくらいしかないのだった。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!