第1章 とある国の世話役

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……嫌な風だ。 木に寄りかかって座りながらそんな事を思う。 見上げれば空の色も何だか濁っていて、不穏な予感がしてならない。 「……で、……だ!」 ざわざわと騒ぐ人の声が耳に入った。 聞こえてきた方向へと視線を向ければ、この丘の下で大人達が屯って、何かを話している。 この距離だと、何を話しているのかは分からない。 けど、大方予想はつく。 いい加減にして欲しいものだ。 ただただ平穏な暮らしをしたいだけなのに。 戦争や何だ、領土が何だ。 巻き込まれる身にもなって欲しい。 早く、この窮屈な世界から解放されたい。 目を閉じて、そんな事を考えていたせいか。 「何サボってんの。」 ひょいっと、突然現れたその存在に気付けなかった。 ……ああ、最悪だ。 よりによって、こいつに見つかるとは。 そんな事を思いながら、しれっとした顔であたしは答える。 「人聞きの悪い事言わないでくれませんか?」 そうして、肩の上に置かれたその手をぺしっと軽く払う。
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