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目を向ければ、相変わらずその無駄にいい顔が軽く笑みを浮かべてこちらを見ていた。
さらりとした黒髪に、琥珀色の瞳。
端正な顔に柔らかい微笑を浮かべることがデフォルトのこの男に、何人の女が犠牲になったものか。
当然、あたしはこの男の性格を知っているからそんな事にはならない。
誰が好き好んでそんな性格最悪の男を選ぶものか。
「ねぇ。僕が君の雇い主って事忘れてない?」
きっと、手を払った事を言ってるのだろう。
けれど、あたしは知らん顔して続ける。
「そんなまさか。環様のお陰でこうして生活出来ている訳ですし。」
そうして、これでもかというくらいに皮肉を込めてそう口にする。
だって、あたしは何度も何度も退職願を出している。
そうだというのに、毎度この男は受け取った直後びりびりとそれを破り捨てるのだ。
「ふうん。てっきり逃げ出したのかと思ったよ。」
出来るものならそうしてる。
内心毒付いていると、性懲りもなくその払われた手を動かして、あたしの頰へと触れる。
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